鈴木先生/根岸先生のお言葉。(特に有機系のヒトへ)

鈴木先生、根岸先生とは、個別にお話する機会があったので、その時にお話した内容を、簡単にまとめてみました。興味あればどうぞ。特に、有機系の方であれば、内容がわかって面白いかと思います。

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鈴木先生編に引き続き、根岸先生編をupします。

Q1. 根岸先生が開発された反応は、液晶、医薬品などに必要な化合物合成に欠かせない反応となっていますが、実用化に関しては常に意識されていたのでしょうか。

A. 私の場合は、有機化合物…全部とはいわないけれども、ほとんどの条件で、炭素炭素結合を簡単に作りたいという夢があった。比較的簡単に作れて、しかも高収率で、選択的で…そういうことしか、考えていません。ただね、そういう反応ができれば、いろんなものが、能率的に、選択的に作れるようになるだろうという夢は持っていました。だけどそれが、薬なのか、他のものなのか、そういうことは特に考えてませんでしたね。

Q.ポテンシャルはすごい高いな、ということは感じておられたんですね

A. そうです。有機化合物を合成するためにはいろいろな経路が考えられますが、やはり、(欲しいパーツを作って、あとでカップリング反応でくっつける)レゴゲームが一番いいと思ったわけですよね。

Q. 有機化学というのは、パズルのような側面もあり、独特な分野ですよね。その辺りが面白いと思われたのですか。

A. そうですよね。有機化学というのは、いろいろな要素がありますが、数学みたいに、堅いばっかりではなくて、ぼやけた部分もあるし、それから私は、shapeとか、幾何的なものが好きですからね、数学の中でも。やっぱり化学にはそういう面もありますから。それからもちろん、実用化につながる可能性があるということは、最初から考えていました。けれども、どういうところにつながるか、ということまではあまり考えていませんでした。

Q. 私たちの世代では、海外の大学に進学する人が少ないですが、何が一番、今の若い人たちに足りないでしょうか。

A. いろいろとネガティブな部分はありますよね。まず第一は、やっぱり外国語でしょう。外国語がよくできたら、行きたくなるんですよ。外国語ができないと、行きたくない。好きか嫌いかということは、できるかできないかということと、非常に相関関係がある。外国語ができるようになるには、かなりの決心と、かなりの努力がいる。それとカバーラップするのかどうかわからないが、外国に出ると、就職先がなくなるとか、そういう心配をしている人がいる。でも、もしもですよ、自分が、バイリンガルな人間になって、英語がよくできて、科学が専門で科学もよくできる。そういう風になったら、そういう人を取らない社会ってありますか?おかしいでしょ。だから、そういう自信を持って、海外に入っていくべきだと思いますよ。逆に言うと、そういう自信がない人は、ひょっとしたら、やらなくてもいいのかもしれない。

「好きなこと」と「できること」は、どうも車の両輪のように回っている。好きなだけではだめ。それができないとだめ。これはどんなことでも同じだと思いますね。
我々のような立場の人間とか、国なんかは、もっと、若い人たちに夢を持ってもらえるように、「馬の前に人参」じゃないですけど、そういうものを、もっともっとまかなきゃいけない。

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鈴木先生編です。


Q1、科学者として成功するための秘訣を教えてください
A, とにかく、好きなものを見つけて一生懸命やらないといけない。自分はもともと、科学が好きになって、これを突き詰めたが、国民全員が科学を好きになっても意味がない。上から押し付けるような教育はよくない。一人一人が、好きなものを自由に見つけられるような環境を作ることが重要だ。

自分が科学を好きになったきっかけは、卒業研究で、教授から合成するように指示されたごく簡単な化合物を、作った時だ。それは、すごく簡単に合成できる、シンプルな構造の化合物だったが、教授に「これは世界で初めて君が作った化合物だよ」と言われ、すごくワクワクした。これがきっかけで、有機合成をやっていこうと思った。



Q2、今、好きなものがなかなか見つからない若者が増えていますが
A, 好きなものを見つけるためには、まず、幅広い領域をある程度勉強しなきゃならない。そうすると、自然と、好きなもの、嫌いなもの、得意なもの、不得意なものがわかる。何をやろうかわからない人は、まずいろんな分野を勉強してみなさい。



Q3、実用化につながったことが、ノーベル賞受賞に大きく貢献したと話されていましたが、実験している最中から、実用化のことは意識していたんですか。
A. 直接意識していたわけではないが、もし、この反応が実現したら、すごいことが起こるということはわかっていた。有機合成の世界では、窒素、酸素、硫黄などと炭素の結合は比較的すぐにできるが、炭素炭素は非常に難しかった。これまでにも、グリニャール試薬など、炭素炭素結合を作る反応は他にもあったが、反応条件に制約が多く、とても大量生産に使える反応ではなかった。それが、鈴木カップリング反応で可能になった。

ちなみに、今回の化学賞は、「パラジウム触媒を使った」クロスカップリング反応となっているが、個人的には、このタイトルには賛成でない。パラジウムは、他のもの、例えばニッケルなどでもよい。もっと大切なのは、ホウ素化合物と、塩基性触媒を使ったことで、これが私がやった大きな仕事だ。これまで、ホウ素化合物は、非常に安定であるため、反応には使えないとされてきた。それが、きっとできると信じて私がやって、できた。これは、毒性も低いし、反応条件も温和で、だから、医薬品などの合成のための、実用化に大きく貢献した。



Q4、実用化を意識しながら研究することは、研究者にとって重要ですか。
重要だと思う。幸いにも、私の場合は、実用化につながったが、常に、advantageを考えるのは重要だ。他の反応よりも、どこが有利なのか、そういうことを考えながら実験をしていた。